甘く香って
「どう?だいぶ良くなった?」
「もう大丈夫、熱もないし」
「でもまだ顔色悪いわね、
明日までは休みなさいよ」
あれこれ言われるのも嫌なので
おとなしく「うん」と従うことにした。
母が出ていったあと、すぐに玄関のほうから聞き慣れた声がした。
ーあら、わざわざ来てくれたの?
-はい、心配で・・・もう大丈夫なんですか?
カチャリと部屋のドアが開き、
君が顔を出した。
「具合どう?」
「うん、大丈夫大丈夫。大事とって明日まで休めって言われたけど」
「良かった。風邪引くといつもぶわーって
熱出るから心配しちゃった」
ああ、この人はなんだって知っているのだ。
僕の風邪の引き方さえも。
「あ、ご飯ちゃんと食べた?」
「食べた食べた」
「ほんとにちゃんと食べた?
じゃあお見舞いのアイスあげます。」
「・・・ありがとう」
「美味しそうでしょ?
限定の甘熟いちご練乳だって」
がさがさ、とビニール袋からまだ薄らと霜が残るカップアイスを取り出すと、
ふたを開けて中蓋を剥がし、
木目のスプーンですくい取ったアイスを
僕の口元へと持ってきた。
「やだよ、自分で食べれるからいい」
「なんで?いいじゃん、
こういう看病っぽいことしてみたい」
照れる僕を見て楽しんでいるような言い方に渋々、口を開けた。
ひんやりと冷たい甘さは
たちまち溶けていく。
馬鹿みたいだけれど、きっとこれが恋の味。
「おいしい」
「ほんと?食べてみよっと」
自分でもアイスを食べた。
「風邪うつるからやめなって」
「多分平気、丈夫だもん。
病は気からっていうし」
よく分からない持論を展開しながら、
また円周をすくって僕に差し出すー
スプーンはしばらく僕たちの間を
行き来していた。
近くの公園でサッカーをしているらしい
子供達の声が部屋の中まで聞こえる。
その活気はまるで、
四角く切り取られた部屋に2人だけ
という事を強調しているようだった。
ああどうか、こんなタイミングで
母がお茶を持ってきたりしませんように。
もう少しだけ、あともう少しだけ。
どきどき祈りながら僕らは
こっそりとキスをした。
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