お揃いを纏って

「あっ」

待ち合わせ場所に辿り着いた途端、
ほぼ同時に声を発した。

薄手の枯れ草色の羽織にデニム、
白いスニーカーを纏った君と
僕の出で立ちが全く同じだったからだ。

服装にはあまり頓着のない僕だが、
ここまでぴたりと同じなのは、
まるで示し合わせたようで気恥ずかしく、
なんだが申し訳なくもあり
思わず「恥ずかしいよね、ごめん」
と謝ってしまった。

「なんで?全然いいじゃん、
偶然でお揃いとかすごくない?嬉しいよ」
と言いながら、
いとも自然に手を取られ
するり、と手を繋がれた。

口先の気遣いや取り繕い、
それらの不純物を含まない
心から「全然いい」と思っているような
澱みのない言い方は
僕の心をふわり、と軽くした。

「うん、すごい。僕も嬉しい」

すぐにそう言えたらよかったのに、
太陽の光を取り込んだ向日葵のような虹彩に思わず見とれて、言葉が出てこない。

「今日どっちかが迷子になったらさ、
”服装はこれです”って言えて、楽だよね」

こんな照れ隠しの言葉ばかりが、
すらすら出てくる。

(僕も嬉しい。)
本当に言いたかった言葉を
繋がれた右手に込め、ぎゅっと握り返した。

「じゃあ、行こっか」

僕たちは木漏れ日の差す小道を歩き出す。

見えるお揃いと見えないお揃いを纏って。

梔子文庫

Kuchinashi Bunko 小説に纏わるあれこれ、 ショートショートをメインとした個人サークルです。 ストーリーは「眠れない夜の小さな話」を テーマにして書いています。 その他、細々とWEBマガジンにて 記事を書かせて頂いたりしています。

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