カイパーベルト
ふとカレンダーを見て
誕生日が近いことに気がついた。
小さい頃から物欲が薄く
誕生日やクリスマス、
祖父母の家に遊びに行った時…
「なんでも欲しいものを買ってあげるよ」
と言われるたびに
少し悩んでは「ううん、いらない」
と首を横に振っていた。
今だって気づいたからどうということもなくいつも通り、僕はベランダに出た。
デッキチェアに寝そべり
目の横に手で柵をつくって夜空を仰ぐ。
こうすると、まるで手品のように
僕の視界は真夏の星空になるのだ。
手を伸ばせば掴めそうなのに
実際に掴めない星は
不毛な片恋に似ているような気もする。
「あ、やっぱりベランダにいた。
またやってるの?」
「ほっといて、趣味だから」
「ほんと冷たいよね、
せっかくプレゼント渡しに来たのに。
まあその無愛想が持ち味だからいいけど。
はい、少し早いけどお誕生日おめでとう」
突然差し出された細長い箱を開けてみると
文字盤に星座早見盤が
デザインされた腕時計だった。
「わ・・・」
「いいでしょ、それ。
見つけた時もうこれしかないと思って。
蓄光材?とかいうのが使われてて
明るいところで光をいっぱい溜めといて
暗いところで光るんだって」
いつだって、僕のできないことを
さらりとこなすから
心の軌道はすぐに揺らいでしまう。
こんな風に、屈託ない笑顔で誕生日に
星空をプレゼントしたり、
「うん、やっぱり似合うね」と
じんわり夜の青に染まっていくような
深い笑顔を見せたり。
一体、どれくらい分岐点があって
その先に何通りの表情を
隠し持っているのだろう。
星の巡りと同じように
予想ができたらいいのにと思った。
これから毎日身につけるであろう、
小さな星空。
それは、ついさっき見たばかりの
宝石をばらまいたような景色を
そっくりそのまま
閉じ込めてしまったみたいに
藍色の夜の中で煌めいていた。
誰かに欲しいものを尋ねられたら
今の僕は、あの頃と少しだけ
違う答えになるだろう。
ーううん、"全部持っているから"いらない。
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