朝顔と花火と帰り道の
どうして今夜に限って、苦手な人混みへ
自ら向かったのか分からない。
誰もいない家の中で花火の轟く音を聞く事が
寂しかったのかもしれない。
夕飯も屋台で済ませようと僕は花火大会へ向かった。
ばったり遭遇した中学の同級生達と
取り留めのない会話をしたりと、
なんだかんだと楽しく過ごした後の帰り道。
朝顔が描かれた濡草色の浴衣を着て、
ぎこちなく歩く後ろ姿を見つけた。
一緒に帰ろうと近づき、
その肩が小刻みに震えていることに気づく。
「振られちゃった」
僕の方を見ずに言った。
「……そっか」
「惨敗って感じでね、悲しいっていうか
自分がダサくて笑えてくる。
あんなひどい人だと思わなかったの」
本当は思い切り泣きたいんだろう、
でも泣けないんだろう。
絆創膏の1枚も持っていなくて、
履き慣れない下駄で作った靴擦れにさえ
何もできない僕なんかの前じゃ。
それを分かった上でその場を離れなかった。
自分でも理由は分からなかったが
泣かないでほしかったのだ。
毎日見ているはずなのに
テニスの練習で少し日焼けした肌に似合う、
快活な笑顔を無性に見たかった。
庭のビニールプールで遊んだ、
一緒に自転車の練習もした、
意外に手先が器用で僕の代わりに
夏休みの工作を作ってくれた、
いつも近くにいてくれた大事な大事な ー。
「綺麗だよ、本当に」
「どうしたの?普段褒めないのに
今日は優しいね
これね、美容院でやってもらったんだよ」
違うよ、そんな話じゃなくて。
1人の人に気持ちを注いだことと、
それを伝える勇気を持っていることが。
浴衣姿もそりゃあ綺麗だけれど。
そう言いたかったのに、
こんな時でも言葉足らずだった。
さっきから後ろで上がっている花火と一緒に
僕も消えてしまいたい。
「ねえ、花火最後まで一緒に見てくれる?」
少し涙目の笑顔で君が言う。
「うん。あっ、りんご飴買ってあげよっか?」
「ほんと?でも私焼き鳥のほうがいいな」
「急に元気になるんだね」
僕達は、踵を返して
威勢のいい呼び込みの声がするほうを
目指して歩いた。
並んで歩くことなんて、
当たり前の日常なはずなのに
なぜか僕の心臓の鼓動が花火と同じくらい響いていた、
不思議な8月の終わりだった。
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