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梔子文庫

Kuchinashi Bunko

小説に纏わるあれこれ、
ショートショートをメインとした個人サークルです。
ストーリーは「眠れない夜の小さな話」を
テーマにして書いています。

その他、細々とWEBマガジンにて
記事を書かせて頂いたりしています。

2021.09.28 12:00

甘く香って

「どう?だいぶ良くなった?」 「もう大丈夫、熱もないし」 「でもまだ顔色悪いわね、明日までは休みなさいよ」 あれこれ言われるのも嫌なのでおとなしく「うん」と従うことにした。 母が出ていったあと、すぐに玄関のほうから聞き慣れた声がした。ーあら、わざわざ来てくれたの? -はい、心配で・・・もう大丈夫なんですか?カチャリと部屋のドアが開き、君が顔を出した。「具合ど...
2021.09.18 12:00

ボーイ・ミーツ・ガール

理由のないプレゼントというのは、実は最も難易度が高いのではないだろうか。ただでさえ気の利いた事ができない僕は、ラッピングされた児童書を見ながら思った。誕生日やクリスマスと違い、タイミングが難しいし相手にどうしてなんて聞かれたら、特に理由らしいものなんてない。 きっかけは、昨日ふらりと立ち寄った神保町のブックカフェでの出来事だ。 「あっ、懐かしいこれ。子供の...
2021.08.31 11:37

朝顔と花火と帰り道の

どうして今夜に限って、苦手な人混みへ自ら向かったのか分からない。誰もいない家の中で花火の轟く音を聞く事が寂しかったのかもしれない。 夕飯も屋台で済ませようと僕は花火大会へ向かった。ばったり遭遇した中学の同級生達と取り留めのない会話をしたりと、 なんだかんだと楽しく過ごした後の帰り道。朝顔が描かれた濡草色の浴衣を着て、 ぎこちなく歩く後ろ姿を見つけた。一緒に...
2021.08.12 13:32

カイパーベルト

ふとカレンダーを見て誕生日が近いことに気がついた。 小さい頃から物欲が薄く誕生日やクリスマス、祖父母の家に遊びに行った時…「なんでも欲しいものを買ってあげるよ」と言われるたびに少し悩んでは「ううん、いらない」と首を横に振っていた。 今だって気づいたからどうということもなくいつも通り、僕はベランダに出た。 デッキチェアに寝そべり目の横に手で柵をつくって夜空を...
2021.07.31 12:08

草熱れ

「やっぱりたい焼きのほうが食べたい」列に並んでる最中、唐突に隣の君が呟いた。 最高気温は31度。今日もよく晴れていて、強い日差しに何度も目をしばたたかせた。「え?かき氷は?」 「うーん…たいやきって文字をずっと見てたら食べたくなっちゃって」洒落た趣ある暖簾を指す。 「ほんとに食べるの?こんなに暑いのに」 「うん、今はたい焼きがいい。…いい?」綺麗な黒。僕と同...
2021.07.25 16:14

お揃いを纏って

「あっ」待ち合わせ場所に辿り着いた途端、ほぼ同時に声を発した。 薄手の枯れ草色の羽織にデニム、白いスニーカーを纏った君と 僕の出で立ちが全く同じだったからだ。 服装にはあまり頓着のない僕だが、ここまでぴたりと同じなのは、まるで示し合わせたようで気恥ずかしく、なんだが申し訳なくもあり思わず「恥ずかしいよね、ごめん」と謝ってしまった。 「なんで?全然いいじゃん、...
2021.07.17 11:25

泡沫の、

ほんの2時間前の夏祭りの賑やかさが幻だったかのように静寂を纏う神社の境内。「まだもう少し話していたいね」と僕たちは階段に並んで座っていた。「昔さ、この中に入ってるビー玉がどうしても欲しくて2人で頑張ったよね覚えてる?」屋台で買ったラムネの瓶を見つめながら君が言った。「うん、覚えてる。色々試して結局取れなかったけど」くびれた薄青色の瓶の中に閉じ込められてきろん...
2021.07.13 08:36

ジェリージェリー

くらげになったような気分だった。旅先の旅館で少しも寝付けなくなってしまった僕は、ふわりふわりと海中を漂うような感覚を感じながら隣の君に声をかけてみる。「寝た?」まるで、修学旅行の夜のような質問だ。「ううん、まだ」残念ながら、お喋りは期待できそうにないまもなく眠ってしまいそうな声が返ってきた。結局、僕は夜明けまで浅い眠りに揺蕩ってみたりしながら海の中のような青...
2021.07.07 11:50

横顔に映りて消えし

どおん、どおんという轟音に目が覚めた。ほんの少し昼寝、のつもりがすっかり眠り込んでいたようで、明るかったはずの部屋は濃紺のインク壺の中にいるようにすっかり暗くなっていた。窓に近づくと、少し遠くで花火が上がっていた。「どうしたの…?」隣で寝ていた君も目を覚ます。「今日、花火大会だったみたい」「え!ほんと?ここから見える?」「うん、少し遠いけど」僕たちは並んで花...
2021.06.05 14:05

動かない言葉

「国語、嫌いだったんだよね数学みたいに答えもはっきり無いじゃん?主人公の気持ちとか分からないし」 夕方のスターバックス、数学が得意な友人が言っていた。「文章の中によく読むと書いてあるってば」僕は説得力の無い反論をしながら、頭の片隅では別のことを思い出していたある1冊の本と、放課後の教室のワンシーンについて。「ねえ、この短歌知ってる?」君かへす朝の舗...
2021.05.31 19:33

星の橋梁

雨がしとしと降っている。七夕の日って毎年のように梅雨空が広がっているような気がする。窓の外を見ながら、僕は大好きだった先生が教えてくれたフィンランドに伝わる七夕の物語を思い出していた。元々僕は、多くの人が幼少期に1回は聞かされているであろう織姫と彦星の物語があまり好きではなかった。性格のねじ曲がっていた僕からしてみれば、「恋に盲目になり、遊び暮らした挙句ニー...

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